雑記

雑記

異世界系が人気な理由を考える

読書をなぜするのだろうか。自分にはない新しい哲学や思想を取り入れたい、仕事に関係する資格やスキルを勉強したい、実生活で便利になることを知りたいなど、一人ひとり本を読む理由は異なると思う。

出世したければ本を読め、教養を身に着けたければ本を読めと言うが、なにを読めばいいかわからない。もちろん短期・局所的に役に立つ本は見つかるだろうが、効率を考えると大局を見据えた本を読みたいと思ってしまう。

本の本質は情報のかたまりであるので、それらを考察していきたい。

 

本を読む理由は、未来の変革と現状の安定化を求めている

本は一日に200冊が新たに書店に並び、年間にすると約7万冊が発行されている。本屋に行くとさまざまな種類があり、明確に分類することは難しい。なので、ぼくなりにわけて考えてみようと思う。

 

本の種類はおおきくふたつ。

ひとつは、自分のなりたい像を手助けするものだ。哲学や思想書であればいまの自分にはない考え方や解釈を学べ、スキルやノウハウ本であれば実現できる能力が手に入り、実用書や専門書であれば知識を増やし新たなものを生み出すことができる。

これらは自分のこうありたいという姿、つまり未来の理想像について書かれた本であると言えるだろう。それを思考から変えるか、知識や行動から変えるかの違いでしかない。

 

もうひとつは、精神の健康をサポートするものだ。具体的には小説やノンフィクション、ストーリーのあるビジネス書がこれにあたる。

なぜ、メンタルが健康になるのか。それは読書によりカタルシスが生まれるからだ。

日常生活では必ずストレスがたまる。ストレスの方向性はさまざまだ。それらを発散させずにいると、精神に異常をきたしてしまう。そしてその異常は顕在化しなかったり、数年後に効果が襲ってきたりと時間差だったりもする。

これらの予防が読書だ。とくに小説などストーリーがあるものは自己投影により代償経験を得ることができ、感情の揺り動かしがおおきいほどカタルシスが生まれ、精神が解放されるのだ(もちろん読書に限らず、あらゆる娯楽も同様の効果があるだろう)。

 

このように本は未来のビジョンをつくり、心の健康を得るためのツールと言えるのではないだろうか。

 

ファンタジーとはなにか

大きく本の種類がわかったところで考えてみたい小説の領域がある。ここ最近で人気ジャンルのひとつである「異世界系」だ。ただ、異世界系はファンタジーの一種だ。なので、考察に入る前にファンタジーとはなにかを考えたい。

 

ぼくのなかではおおきくふたつに分けられる。

ひとつはハイファンタジーだ。

ぼくたちが生きる現実世界と全く違う世界で、文化や科学法則、思想、常識などが異なる世界でストーリーが展開される。パッと小説で思いつくのは「指輪物語」、マンガだと「ハンター×ハンター」や「鋼の錬金術師」だろう。どの物語も独自のルールで世界が形作られている。古いモノで言えば神話もファンタジーに含まれるのではないか。

 

もうひとつはローファンタジーだ。

こちらは現実世界を下地に、少数の空想的設定を盛り込んだ世界のことだ。代表的なもので言えば「ハリーポッター」だ。現実のイギリス社会を基盤として、空想の魔法世界という法則をつくった世界観だからだ。このように現実と架空が入り混じり展開される。古いモノで言えば英雄伝だろう。

 

近代のファンタジーはリアリズム文学のアンチテーゼ、もしくは児童文学から派生したものだ。

つまり新しいジャンルは、地続きできたものが現代の価値観に合わなくなって反対のものがつくられるか、もしくはむかしの思想をアップデートして現状に合うよう再構築するかではないだろうか。

 

異世界系というジャンル

ファンタジーの概念がわかったところで異世界系の考察に入りたい。

 

異世界系とはライトノベルの中のジャンルのひとつで、2011年ごろにできたWEB投稿小説サイト出身の作品をおもに指す。

主人公が現実とは違う世界に転生・召喚・転移するが、その世界は現実世界より科学や文化、思想・哲学などが数世紀(もしくはそれ以上)で遅れているケースが多い。また主人公は、異世界住人にはない特殊能力や身体性を持っていることも多い。このため主人公は、おおきく知能や身体性(特殊能力を含めた戦闘力)が異世界住民より上回っているため物語はイージーモードで進み、挫折が少ないのが特徴だろう。

 

全く新しいジャンルのように思えるが実は違う。むかしの有名なものでは、日本書紀の浦島太郎の伝承がある。また、近年では「遠野物語」や「十二国記」なども異世界系だ。つまり、既存のものを時代に合わせて再構築したジャンルということだ。

では、なにを時代に合わせたのか。

わかりやすさと効率性、ノンストレス、現実逃避・投影性の3つではないかと思う。

 

わかりやすさと効率性は、まさに現代ならではと言えるだろう。テクノロジーの進歩により小説以外の娯楽コンテンツがあふれている。つまり、知識がなくても、自分の頭で深く考えなくても楽しむことができるエンターテインメントが氾濫したのだ。

そして大量にあるために、自分にあったもので余計なストレスがかからないものを選ぶ。

コンテンツを消費するのは追体験であり自己投影であるため、現実性がなくても体験している世界では理想が強いものになる。

このように、わかりやすく自己投影しやすくカタルシスが生まれるコンテンツを求めているのが現代の特性だと言えよう。

 

 

ちなみにライトノベルということばが生まれたのは1990年ごろだ。そしてここ5年くらいで異世界系が流行る。これらからわかることは、時代背景とカルチャーをつくっていく若者の精神性がリンクしているということだ。

バブル崩壊から就職氷河期へ突入し、リーマンショックも起こった。終身雇用と年功序列の崩壊とともに非正規雇用率の上昇と続く。そして広がるインテリと大衆の二極化。

このような背景から、手軽に理想像を実現した体験という「勝ち組人生」のようなものを味わいたいと思うのは不思議ではない。そしてある意味自殺者数の増加と「転生」もの作品が多く見受けられるのは構造的な示唆を得ることができるかもしれない。