ことばを外気に触れさせる前に
ことばは、とくに文章は、木工用の接着剤に似ている。液体から、少しずつ可塑性を失い、固体になる。
ひとたび文字にして外気に触れさせた瞬間、ことばは硬化をはじめる。
だからこそ、文章は安易に書きはじめるものではなく、なにかしらの設計図を引いたうえで書いたほうがいい。
では、どんな設計図を書くのか。
「なにを書かないか」を決めるという。ライターは、彫刻家に近い。不要な個所を削り取っていった結果、ぼんやりと像(書くこと)が浮かび上がってくる。実際に「書く」のはそれからである。
なにを捨て、なにを残すか
取材とは、ひとえに「分母を増やすプロセス」だという。分母が「取材で得た知見」で、分子が「書くこと」。
母数が大きいほど、コンテンツの価値は高まっていく。ただし、落とし穴もある。
圧倒的な「分母」ゆえに傑作たりるわけではない。「なにを捨て、なにを残し、どうつなげるか」の選択が研ぎ澄まされたから、傑作は生まれる。
構成力を鍛える絵本思考
絵本というメディアの特性三つ。
・物語
・イラストレーション
・省略
絵で説明しないと伝わらない場面などを抽出する
絵本作家は、読者が目にしているものと同じテキストをもとに、「なにを捨て、なにを残し、どうつなげるか」を考え、10枚や20の絵を描き起こしている。
構造の頑強性を考える
どうやって構成を考えていけばいいのか。「ライターが編集するもの」として示した「価値の三角形」を思い出そう。
・情報の希少性
・課題の鏡面性
・構造の頑強性
情報の希少性を考える
上がってきた原稿がまったくおもしろくないのは、「書くこと」と「書かないこと」の選択ミスをしてしまっているからだ。
なんらかの手続きを踏んで考えたほうがいいだろう。指針となるのが「情報の希少性」だ。
情報の希少性として「桃太郎たらしめるもの」は次の4点
・桃
・きびだんご
・家来になる動物たち
・鬼ヶ島
この4点があるからこそ、魅力的なのだ。
情報の希少性を考えることは、「ここでしか読めないもの」。これはコンテンツの核心をつかむための問いかけでもある。
課題の鏡面性を考える
すぐれた小説を読んでいると、読者がコンテンツのなかに、「わたし」を見出した状態になる。言い換えれば、コンテンツが「わたしを映し出す鏡」として作用している状態だ。古賀氏は「課題の鏡面性」という。
各シークエンスを取りこぼさない構造の頑強性。そして「この原稿を、原稿たらしめているもの」を考える情報の希少性。さらには読者の「自分ごと化」を実現する課題の鏡面性。自分の取材した分母について、絵本的発想で考えられるようになれば、構成力は各段に向上するはずだ。
バスの行先を提示せよ
三田紀房先生の原則だ。
「バスの行き先理論」三田紀房先生の原則だ。バスの行き先が示されているからこそ、移動の時間をたのしむことができる。同じことは新連載の漫画にも言える、先生は語る。
なるべく早い段階でゴールを示したほうがいい。読者は安心してそのバスに乗ることができる。逆に、ゴールや行き先が不明なままでは、半信半疑のまま様子を窺う。それが「バスの行き先理論」だ。
行き先のわらかないバスなど、誰も乗ってくれないのである。